短歌の純響社

ぽぽぽ式アラ川通信
船とハンモック

訳あって、ここ3週間ほど、ほとんど外に出ずに家のなかで過ごしているのでした。
椅子に寄りかかって仕事をするか、横になっているかの毎日です。

ちょうど仕事がそこそこ忙しい時期だったから、どちらにしても外で遊びほうけてる暇はなかったのだけれど、それでも外に出られないのはつまらない。つまらないけれどしょうがないので、大人しく過ごしています。

仕事の合い間に、ソファでちょこちょこ居眠りをしていると、からだに熱がたまります。
首筋に背筋に、汗をかいて目が覚めて、麦茶を飲んで、仕事をするか眠る。暑いのは夏だから、真夏だからしょうがないけれど、それでも何だかわずらわしい。
ソファがからだに密着するから、なおさら暑いんだろう。でも、地上には重力があるから、なにかに密着しないで眠るわけにはいきません。
せめてハンモックがあったらなあ、と思ったせいか、その日はハンモックの夢を見たのでした。

そこは船のなか。あたりは薄暗く、人の背よりもやや高い程度に、天井が頭上に迫っています。天井からは褐色のハンモックがみっちりと吊るされていて、そのひとつひとつに人が、それぞれ詰まっているのです。

船がぎしりと傾いて、ハンモックが一斉に揺れました。
どこからかコウコウといびきが聞こえます。
船に当たる波音。いびき。綱の軋み。
一定の早さで、時々乱れながらも繰り返す音と揺らぎ。
音が止むことはないのに、船内はとても静かです。

ハンモックに揺れるひとびとは、どこか荷物のようにもみえます。眠りという荷物。
からだはハンモックの中。こころは眠りのなかで、地面を離れてたゆたう。
幾多の眠りが荷詰めされて、船内に吊るされて運ばれている。ここにいるけれど、ここにいない人々が、海の水の上をすべり、静かに移動し続けていきます。

目を覚ますと、日が暮れて、部屋のなかはすっかり暗くなっていました。
手をかかげると、薄闇のなかにほの白く肌が浮かびます。
手をゆっくりと動かせば、船のなかにいるように、空気がゆるやかに肌に当たりました。ハンモックのように、心臓がからだをかすかに揺すります。起き上がって灯りをつけたところで、眠りの残滓は消えていきました。
この間にも、どこかで眠りながら航海していくひとびとがいるのでしょう。荷物のように、ハンモックに包まれ揺らされながら。


  To: 宇宙飛行士のひと 今晩の月の裏側は明るいですか   オカザキなを


オカザキなを 歌人。 1972年、東京の隅っこに生まれる。
「歌人集団かばんの会」会員。
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