短歌の純響社

ぽぽぽ式アラ川通信
ウサギは現在進行形

ウサギがびょん、と跳ねてクッションの上に着地したら、「なでて」の合図。

ウサギはとてもなでられるのが好き。
ひたいを一〜二回なでられただけで、うっとりと涙目になってしまう。

ウサギの体は、丸くてやわらかそうに見える。
でも、触ってみると案外でこぼこだ。
やわらかい毛に包まれた丸い顔に触れると、ネズミのように鼻先は少し突き出ている。
頭も丸いようでいて、両耳のつけ根の間がくぼんでいる。
首を過ぎるとすぐに肩の骨がある。背中の中央には背骨がぎちっと走っている。毛でふわふわのおしりの下には、しっかりとした腰骨。
見た目が丸いしっぽは、実は小指ほどの細さ。
しっかりとした、でこぼこの体に手を沿わせて、ゆっくりと手をすべらせる。

こりこり。こり。
ウサギが喜んで歯を鳴らす音が聞こえる。
しゅ、しゅ。かすかに、毛のうえを手のすべる音がする。

ていねいに撫でているうちに、心のなかのわだかまりは消えて、頭のなかが空っぽになる。
言葉は遠く、欠片も頭に浮かんではこない。

今、ここにいるのは、私とウサギだけだ。

こりこり。
しゅ。しゅ。
こり。
しゅ。

かすかな音。手に伝わってくる、歯を鳴らす振動。
ウサギの体温が首のあたりから、発火するように、ぽ、ぽ、ぽ、と上がっていく。
わたしの手のひらも、心なしか温まっていく。

ウサギを通して、自分の体がある「今、ここ」とみっちり向かい合う。
世界はとても小さくなって、その分ずっしりとリアルになる。

犬がいるときも、猫といるときもそうだった。
なでるたびに、その動物と一緒にいる、現在進行形の自分になれる。
動物たちのおかげだ。そう思いながら、その小さな頭をなでる。


  ウサギったら明日を知らずに永遠のいまを笑って跳びはねる、そら  オカザキなを


オカザキなを 歌人。 1972年、東京の隅っこに生まれる。
「歌人集団かばんの会」会員。
ブログ「port de voix」はこちら


→ぽぽぽ式アラ川通信バックナンバーはこちら

短歌総合誌『短歌苑』2010年、通巻5号発売中!
■特集1 身体を歌う--佐佐木幸綱・河野裕子 作品抄
■特集U:大切な人に捧げる挽歌
短歌3首と近況エッセイ、短歌苑2010年自選8首
⇒「短歌苑」についてもっと詳しく


▲ページの一番上へ戻る