短歌の純響社

短歌時評 西巻真
綾取りあそび

冷蔵庫をのぞいたら、牛乳と卵三個とタマネギ二個しかなかったんでした。

牛乳と卵を飲んでタマネギをかじって暮らす、わけにもいかないので、スーパー
へ向かうことにしました。ブタコマやらホールトマトやらツナカンやらキノコやらカ
ボチャやらダイコンやらネギやらミリンやらコーンスープの缶詰やら納豆やら、を
ぽいぽいぽいとプラスティックのカゴへ突っ込み、いざお会計へ。

夕方のレジはかなりの混みようで、殺気立った女性たちが一列に居並んでいま
した。私の前には子連れの女性が重そうなカゴを抱えています。
視線を感じて顔をあげると、斜め前に突っ立った子どもが退屈そうにこっちを見
つめてから、輪っかになったヒモをぶんぶんぶん、と振りまわしました。
そうしてこっちを向いたまま、あや取りを始めたのです。

あや取りを見たのは20年ぶりくらい。
「それなんのかたち」
と子どもに聞いてみると、
「はしごー」
と子どもは叫びました。そうしてまた糸をほぐして、一から作り始めました。次も同
じものを作ってみせて、
「これもはしご。中指」
とおごそかに宣言しました。さっきはひとさし指だったけれど、今度は中指に引っ
掛けて作った、って言うことのようです。
指が変わるとグレードがあがるのか。感心している私の目の前で子どもはまた
つるつると指に糸を引っかけ、
「これー」
と今度は6つの輪がからまったものをこちらの目の前につきつけてから、
「おはなー」
と告げました。うん、花びらがいくつもある、おはなの形だ。

そうして子どもが4度目のあや取りに取りかかったところで、子どものお母さんに
レジの順番がめぐってきました。レジ台に空いた小さなスペースを指差して、子ど
もが
「いいよ」
と言うので礼を言って置かせてもらいました。そうして子どもが
「まだまだできるよ」
と言って、何が何だかわからない、ごちゃごちゃに糸が絡まったものを作ってみ
せたその時、お母さんのお会計が終わりました。レジの番になった私が列を進
み、店員さんを見ている間に、子どもはあや取りとともにどこかに消えてしまい
ました。
さっきまでの雄叫びも途絶えて、混んだスーパーの中で、忽然と。

それが12時間くらい前のできごとです。そうして私はテーブルに座ってぼけっとし
ながら、あの最後に見せてくれたあや取りって何だったかな、なんてまだ考えて
るわけです。
あれって作りかけのほうきだったのかな。壊れたはしごなのかな。
どうにも見当がつきません。
昔はあや取りのこと、いろいろと知ってたんですよ。昔はね。
あの子はいったい何を、私に見せたかったんだろうなあ。

   ボボボウとペットボトルは笑い出す子どもの息ってこそばゆくって オカザキなを


オカザキなを 歌人。 1972年、東京の隅っこに生まれる。 「歌人集団かばんの会」会員。


→ぽぽぽ式アラ川通信バックナンバーはこちら

季刊 『短歌苑』2009年冬号発売中です!
■特集:愛の歌--現代歌人100人による短歌絵巻
エッセイ 酒井佐忠・八城水明・村岡嘉子・青木春枝
      人形愛--川田茂・雪舟えま
⇒短歌苑の詳細と購読についてはこちらへどうぞ


▲ページの一番上へ戻る