ドッグラン

ドッグラン

かなりの犬好きで、近くの小金井公園に、犬を自由に走りまわせる「ドッグラン」の施設が出来た時はよろこんだものだ。けれど住宅事情により、走らせる犬を飼っていない。それなら自分が犬になりかわって走ればいいと思うのだが、まだ自我への執着を捨てきれていないので、ワンワンと吠えながら(吠えなくてもいいか)ドッグランを走りまわる勇気がもてない。入場には登録が必要らしいので、公園管理事務所に出向いた。 「ドッグランに入りたいのですが・・・」 「小型、中型、大型どちらですか」 わたしは身長170センチ、体重62キロの、典型的な中型中背なので 「中型です。最近は多少中性脂肪がついているかもしれませんが」 と、きっぱり答えることができた。まだ腹は出ていない。毎日腹筋200回を課しているので。シエットランドプードルのつぶらな瞳をした30代ぐらいの女性職員の表情が、やや曇った気がした。髪がくるくるあちらこちら巻いている、いわゆる天然パーマで、子供のころなめたキャラメルの、キャラメル箱に載っていたパッケージの女の子に似ていた。ちょっと年とったんだな。 「犬、カンサツはお持ちですか?」 犬を観察するという目的意識、展望が問われているのだろうか。人類史上、犬とどう出会ったのだろう、そして現在、なぜ愛玩されているのか、もともと野獣だったものが・・・考えに耽っていると 「カンサツはお持ちですか」 アラホーキャラメル少女が、やや苛立って繰り返す。 「観察するという気持ちだけでいいですか。これはハートの問題です」 「カンサツは気持ちではなく、証明です。今回お忘れになったなら次回からお願いします」 キャラメルはため息をついた。 観察とは命の証明なのか、深みにとどくキャラメルの発言に、思わず居住まいを正した。 「あと、狂犬病注射はお済ですか。その証明票を提出してください」 ツベルクリンからはじまって幼いころから、いやいやながら拷問のようにさまざまな注射を受けてきたが、狂犬病の注射を受けたことが、あっただろうか・・。 確かに若いころはクレージードッグ的振る舞いをしたこともあったが、いちおう人間なので、狂犬病の注射を受けた記憶はない。 「ないです」 「それでは犬に値しませんね」 「わたしが・・ですか・・」 「?????????・・・・・」 キャラメルマークの瞳に、きれいなつぶつぶの ?が並んだ。 ともかくわたしの「ドッグラン」への入場は却下されてしまった。 なんとなく腑に落ちない気分のまま、ドッグランの前の入り口にたって、改めて入場許可の文言を読んだ。 「ドッグランのエンターには、管理事務所からの許可を得てください。その際、犬鑑札の証明票と、狂犬病注射証明票を、持参してください」 そう容易く、犬になって、ドッグランを走り回ることは、できないようだ。

2015年5月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリー:コラム

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