短歌の純響社

短歌時評 西巻真
淀みない、炊きたてご飯 ― 短歌誌投稿欄より


ふり向かずおかえりなさいを言うだろう白いご飯のようなあなただ 渡辺夏子


  まず、下句の大胆な直喩が目を引きます。「白いご飯のようなあなた」 とは、一体どのようなひとでしょう。「あなた」の人物像をさぐってみます。

  「白いご飯のような」。
  ふっくらとした。つややかな。ひと粒ひと粒がしゃきっと炊きあがった。粘り、風味のよい。……といった像的なもの。
  毎日の食に欠かせないもの。不自然に味の足されていない/引かれていない、シンプルなさま。安定感、安心感。

  そのような「あなた」が、台所に立ったまま振り向かずに「おかえりなさい」と告げるだろう、おそらくは普段と変わらぬ光景を、主体はまさにいま受けとるところです。背を向けたままの「あなた」、それを見つめる主体、しかしどちらの胸にも冷たさなどは感じず、むしろほのかな灯がともるかのようです。
  「白いご飯」の直喩は、主体の「あなた」に対する安心感であり、“ここで共に生きる”というシンプルな、かつ粘り強さを要する答えであり、またそのような“ただいま”を背中で受ける「あなた」の、しゃん と伸びた背筋であると言えます。

  おかえりなさい、という自然。調理の手を止めぬ自然。
  ここへ帰る、という、自然。
  日々の暮らしのなかで作られていった淀みない所作は、信頼関係に裏打ちされた、まさに炊きたてご飯のように凛とした美しさなのでしょう。作者の渡辺さんは秋田県在住。ことばから、風土が香ってきます。

           * * *
『短歌研究』2011年2月号・短歌研究詠草より。

石畑由紀子 詩人、短歌詠み。1971年生まれ。
北海道詩人協会会員。
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