短歌の純響社

短歌時評 西巻真
あまやかな罪 ― 「題詠blog2010」鑑賞


あかときの台所に立つ君の手がオムレツふわりとゆらす煉獄 高松紗都子


  台所で「君」が、主体と食べるためオムレツを作っている……これだけなら、
恋人やパートナーとのいつもの平穏な風景になったでしょう。しかしこの歌の時
間帯は「あかとき」、食事を摂るにしてはかなり深い時間帯です。
  この光景は、その直前にあっただろう突然でイレギュラーな関係、つまりは、
情事をおもわせます。そしてその想像は、結句に置かれた「煉獄」で決定的に
なります。

  「煉獄」とは、カトリック教における天国と地獄の間に位置し、自身の罪深さの
ため真っすぐには天国へ行けない者たちが、その罪を浄化するため火による苦
行を受ける場のことです。
  人生そのものが煉獄である、と大きく捉えることもできますが、「台所」という
場所から生まれたこの歌では、あえてもうすこし絞りこんでみたいです。
フライパンで熱せられ焼き上がるふわふわのオムレツが、煉獄で火あぶりにされ
る罪びとにおもえた、さらには、未明ともに過ごしている自分たちと重なって見えた
のでしょうか。

  ただ、煉獄は地獄と違い、最終的には浄化され天国へ渡ることを約束されてい
ます。罪なのだろう、けれどこのひとときを、神のような大きなものに許されたい。
  未明の街にぽつりと灯るこの部屋のように、胸にちいさなあかりを灯し、つかの
ま、苦しく満たされている……「君」の作るオムレツは、そんなあまやかな罪の香り
なのかもしれません。 

           * * *
「題詠blog2010」お題「057:台所」より、印象深かった歌。
※「題詠blog2010」会場→ http://blog.goo.ne.jp/daieiblog2010

石畑由紀子 詩人、短歌詠み。1971年生まれ。
北海道詩人協会会員。


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