短歌の純響社

短歌時評 西巻真
最小単位に満ちる幸福 ―「題詠blog2010」鑑賞


ふきのとうひとつ春子は噛みつきて苦みのことを母に教える  なゆら


  なゆらさん。各お題一貫して「春子」を主人公に詠んでらっしゃいます。設定
はおそらく小学校低学年、好奇心旺盛で恐いもの知らずの少女です。この歌で
も「噛みつきて」の語感にその積極性が垣間見られます。

  春、夕食の準備にあわただしい台所のテーブルに、ふと見れば下校時の道
端によく見かけるふきのとうがごろりと置いてある。
   食べものだったの? 
   駆立てられ、さみどりの葉をガブリとしたものの子どもにとっては驚く苦味、
その衝撃をあのねあのねと事細かく母に報せているのでしょう。報告を受ける母
のあきれ顔、やれやれという笑顔が浮かびます。

  「春子」もやがて制服の歳になり、家を出、社会へと出ていくのでしょう。
  その時にはもう、自らが味わうさまざまな苦悩を母に打ち明けることもないで
しょう。心いっぱいに広がる「苦み」を独りきりで抱えていく、 それまでのほんのわ
ずかな間、心おきなく発信/受信できる関係でいられる……それが「苦み」である
ことにいっそうの醍醐味があり、お題が最大に活かされていると言えます。
  家族という最小単位の社会をともに生きる、日々のささやかな幸福が歌のなか
に満ちています。

            * * *
「題詠blog2010」お題「032:苦」より、印象深かった歌。
※「題詠blog2010」会場→ http://blog.goo.ne.jp/daieiblog2010

石畑由紀子 詩人、短歌詠み。1971年生まれ。
北海道詩人協会会員。


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