短歌の純響社

短歌時評 西巻真
つめたい雨に悲喜は満ちて―「題詠blog2010」鑑賞


あの人の教えてくれたひとつずつ染み入るように菜種梅雨降る  音波


  菜種梅雨、三月下旬から四月上旬に降るつめたい雨です。時には雪まじり、
一度はふんわりと暖気を感じてからの変調なので、そのぶん凍えるような長雨
に感じます。

  この一首、縦書きにするともっと良さがわかります。漢字がぎゅっと集中して
いる結句部分、「あの人の教えてくれたひとつずつ」がしんしんと体内に溜まっ
ているさまが字面でも確認できて、主体にとってのそれらの重みを想起するこ
とができます。

  「教えてくれたこと」のなかには、知りたくなかった事象や感情もあったかもし
れず。いや、恋はその連続であることのほうが多い、受け入れがたいこと、許せ
るのか考えあぐねること……早春のつめたいひと粒ひと粒に感じ入るように、
人に惹かれ繋がることで味わう幾多の悲喜を想います。

  教え「られた」ではなく教えて「くれた」。
  恋の感情を被ることなく捉えるあたり、それでも相手の自由な空を大切に想う
意思が伝わってきます。その凛々とふるえる主体のさまが、ぐっと胸にせまってく
るのです。


※「題詠blog2010」会場→ http://blog.goo.ne.jp/daieiblog2010

石畑由紀子 詩人、短歌詠み。1971年生まれ。
北海道詩人協会会員。


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