短歌の純響社

短歌時評 西巻真
静けさに、死を想う―「題詠blog2010」鑑賞


ひらかれたエゴン・シーレに右頬を乗せてまどろむ忌明けの母は  理阿弥


  エゴン・シーレ。
  前世紀初頭のオーストリアにて、刻みつけるような鋭利な画風で死や自らの内
面を描きつづけた夭折の画家です。非常にストレートな表現、また、自画像を数
多く残していることから、自身の苦悩や葛藤についての強い表現欲があったこと
が見受けられます。

  この短歌に登場する母はおそらくエゴン・シーレの画集をみていたのでしょう。
そんな彼の絵ですから、対峙するにはかなりのエネルギーを要します。すくなくと
も、時間の空いた午後の憩いにぼんやりと眺めるというよりは、しんしんと自身の
内面を見つめるための鑑賞であることがうかがえます。

 忌中の間は、強いかなしみを抱きながらも同時に慌ただしく物事をこなさなけれ
ばならず、また自身が直面した死の事実で器はすでに満水であり、いろいろな意
味で昂っている状態です。この時期にこういった表現に自ら向かっていくことは心
理的に難しく、むしろ避けたいとおもう対象でしょう。

 喪が明けてなお死を想う。いや喪が明けたからこそ、昂っていたものが静まり、
やっと自身の内側を深く見つめることができる。眠れぬ夜を過ごした翌日にふと
手を伸ばしたエゴン・シーレだったのかもしれません。

 喪失に直面した者の心のありさまがうかがえる一首です。


※「題詠blog2010」会場→ http://blog.goo.ne.jp/daieiblog2010

石畑由紀子 詩人、短歌詠み。1971年生まれ。
北海道詩人協会会員。

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