短歌の純響社

短歌時評 西巻真
“神の視点”から見えるもの―「題詠blog2010」鑑賞


鉄骨の少し足りないマンションで出生について次女は疑う    飯田和馬


  不安定な要素をもつ物/者が、入れ子のように描かれています。
  欠陥のある住宅構造、それに気づいていない夫婦、そして自らの血に疑いを
秘める次女(親との類似点、長女という存在と自分に対する親のさまざまを比べ
て疑心に陥っている)。これらが主体の視線ではなく、人の暮らす風景を上方で
ながめる透視能力のある傍観者……神の視点で詠まれています。神の視点で
詠まれたものは観察の域を越えないでしょうか。しかし描かれている“見えない
もの”は、それが単なる疑心や知られざる事実ではなく、作者の意思として編み
込むことに成功しています。


  目に見えない部分がしんしんとそのようにあり、けれどそうあることに気づか
ずに過ごし、続いていくもの。不安定であることに気づかないがゆえの安定。
もしくはその逆、安定しているものを疑うことで生まれる不安定なさま。暮らし
において人の安定とはなんなのか、その決定打は真偽それ自体にあるのか、
それともこころの有様なのか。日々の、人と人との、壊れやすく危ういバランス
がそこにあります。

  疑いを境に安定/不安定と状態を変えるひとつの家庭。神の視点をとおし
て作者が描きたかったものは、その風景を越え、儚いバランスによって在る関
係の尊さ・愛おしさ、人のこころそのものではないでしょうか。

                    * * *

「題詠blog2010」、お題「004:疑」より、印象深かっ た一首。
主催の五十嵐きよみさんによって2003年、題詠マラソンとして始まり、以降毎年
開催されているイベン トです。各お題に寄せて今年詠まれたばかりのステキ短
歌を、言葉のアトリエの庭先よりのんびりと紹介してゆきます。そして時折、ステ
キ自由詩も。ど うぞお楽しみに。
※「題詠blog2010」会場→ http://blog.goo.ne.jp/daieiblog2010

石畑由紀子 詩人、短歌詠み。1971年生まれ。
北海道詩人協会会員。


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